狭心症について

狭心症の説明図

狭心症の病態と治療の概要

狭心症は、心臓の筋肉(心筋)に十分な血液が流れなくなることで起こる胸痛や胸部の不快感を特徴とする疾患です。通常、冠動脈(心臓に血液を供給する血管)の狭窄や攣縮(れんしゅく)によって起こります。

主な症状

  • 胸の中央部の痛みや圧迫感
  • 肩、腕(特に左腕)、首、顎、背中への痛みの放散
  • 動悸、息切れ
  • めまい、疲労感
  • 吐き気

典型的な狭心症の痛みは、運動や精神的ストレスで誘発され、安静にすると治まります。通常、数分間続きます。

狭心症の種類

  • 労作性狭心症:身体的な活動や運動によって誘発される最も一般的なタイプ
  • 安静時狭心症(冠攣縮性狭心症):安静時でも発生し、しばしば夜間や早朝に起こる
  • 不安定狭心症:症状が重く、頻度が増加し、安静時にも発生する場合がある

診断と検査

  • 問診:症状、生活習慣、既往歴などの確認
  • 心電図検査(安静時と運動負荷時)
  • 血液検査
  • 心エコー検査
  • 心臓CT・MRI検査
  • 心臓カテーテル検査(冠動脈造影)

治療

  • 薬物療法:硝酸薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、抗血小板薬など
  • カテーテル治療:経皮的冠動脈形成術(PCI)、ステント留置術
  • 外科的治療:冠動脈バイパス術(CABG)
  • 生活習慣の改善:禁煙、食生活の改善、適度な運動、ストレス管理

狭心症の予防と管理

  • 禁煙する
  • 健康的な食事(塩分・脂肪控えめ)を心がける
  • 定期的な運動を行う(医師の指導のもとで)
  • 高血圧・糖尿病・脂質異常症などの管理を徹底する
  • ストレスを軽減する方法を見つける
  • 処方された薬を必ず服用する
  • 定期的に検診を受ける

心筋梗塞について

心筋梗塞の説明図

心筋梗塞の病態と緊急対応の重要性

心筋梗塞は、冠動脈が完全に閉塞し、心筋への血流が遮断されることで心筋細胞が壊死する重篤な状態です。これは、深刻な胸痛を伴い、生命を脅かす緊急事態です。

主な症状

  • 胸の中央部の強い痛み(圧迫感、締め付け感、焼けるような感じ)
  • 腕(特に左腕)、首、顎、背中、胃への痛みの放散
  • 冷や汗、吐き気、嘔吐
  • 呼吸困難、動悸
  • めまい、失神
  • 極度の疲労感

心筋梗塞の痛みは狭心症よりも強く長時間(通常30分以上)続き、安静にしても治まりません。

心筋梗塞のリスク因子

変えられないリスク因子:

  • 年齢(男性45歳以上、女性55歳以上)
  • 性別(男性はリスクが高い)
  • 家族歴

変えられるリスク因子:

  • 喫煙
  • 高血圧
  • 高コレステロール(脂質異常症)
  • 糖尿病
  • 肥満
  • 運動不足
  • ストレス

緊急時の対応

以下の症状が現れた場合は、すぐに救急車(119)を呼んでください:

  • 安静にしても治まらない強い胸痛
  • 30分以上続く胸痛
  • 呼吸困難や冷や汗を伴う胸痛

心筋梗塞は1分1秒を争う緊急事態です。早期治療が生存率と予後を大きく左右します。

診断と検査

  • 心電図検査
  • 血液検査(心筋逸脱酵素、トロポニンなど)
  • 心エコー検査
  • 冠動脈造影検査

治療

  • 薬物療法:血栓溶解薬、抗血小板薬、抗凝固薬、β遮断薬など
  • カテーテル治療:経皮的冠動脈形成術(PCI)、ステント留置術
  • 外科的治療:冠動脈バイパス術(CABG)

心筋梗塞後のリハビリテーション

心筋梗塞後は、適切なリハビリテーションが再発予防と生活の質の向上に重要です。当院では心臓リハビリテーションプログラムを提供しています。

1

急性期

入院中の軽い運動から始めます。医師や理学療法士の指導のもと、ベッド上での簡単な動きや短い歩行から開始します。

2

回復期

退院後の生活再開と運動量の調整を行います。自宅での日常生活動作を徐々に増やし、軽い運動を定期的に行います。

3

維持期

長期的な心臓リハビリと生活習慣改善に取り組みます。定期的な運動、食事管理、服薬管理を継続し、再発予防に努めます。

心不全について

心不全の説明図

心不全の病態と治療アプローチ

心不全は、心臓が体のニーズを満たすのに十分な血液を送り出せなくなる状態です。これは単独の病気ではなく、様々な心臓疾患の結果として起こる症候群です。

主な症状

  • 息切れ(特に横になったとき)
  • 疲労感、倦怠感
  • 脚や足首の腫れ(浮腫)
  • 運動耐容能の低下
  • 頻脈(心拍数の増加)
  • 夜間の咳、起座呼吸(横になると息苦しく、座ると楽になる)
  • 体重の急増(水分貯留のため)

心不全の種類

  • 左心不全:左心室のポンプ機能が低下し、肺に血液が溜まる
  • 右心不全:右心室のポンプ機能が低下し、静脈系に血液が溜まる
  • 収縮不全(心機能低下型):心臓の収縮力が低下
  • 拡張不全(心機能保持型):心臓の拡張能力が低下

診断と検査

  • 身体診察(肺や足の浮腫の確認など)
  • 血液検査(BNP/NT-proBNPなど)
  • 胸部X線検査
  • 心電図検査
  • 心エコー検査
  • 心臓MRI検査
  • 心臓カテーテル検査

治療

  • 薬物療法:ACE阻害薬/ARB、β遮断薬、利尿薬、アルドステロン拮抗薬、SGLT2阻害薬など
  • 非薬物療法:塩分制限、水分制限、適度な運動
  • 機器治療:両心室ペースメーカー(CRT)、植込み型除細動器(ICD)
  • 外科的治療:冠動脈バイパス術、弁膜症手術、心臓移植など

心不全の自己管理のポイント

  • 毎日体重を測定し記録する(急な体重増加は水分貯留のサイン)
  • 塩分を控えた食事を心がける(1日6g未満を目標に)
  • 処方された薬を確実に服用する
  • 適度な運動を行う(医師の指導のもとで)
  • 禁煙・禁酒(または適量)を守る
  • 定期的に通院し、検査を受ける

こんな症状があれば受診してください

  • 2〜3日で2kg以上の体重増加
  • 息切れの悪化
  • 足の腫れの増加
  • 横になると苦しく、座ると楽になる
  • 夜間に咳で目が覚める
  • いつもより疲れやすい

睡眠時無呼吸症候群について

睡眠時無呼吸症候群の説明図

睡眠時無呼吸症候群の病態と治療法

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に繰り返し呼吸が止まる、または浅くなる病気です。最も一般的なタイプは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)で、上気道が塞がることによって起こります。

主な症状

  • 大きないびき
  • 睡眠中の呼吸停止(家族に指摘されることが多い)
  • 日中の強い眠気
  • 起床時の頭痛
  • 集中力の低下、記憶力の低下
  • 夜間頻尿
  • 疲労感が取れない
  • イライラ、抑うつ

リスク因子

  • 肥満(特に首回りの脂肪)
  • 年齢(40歳以上)
  • 男性(女性に比べて2~3倍リスクが高い)
  • 首の太さ(男性43cm以上、女性38cm以上)
  • 家族歴
  • 扁桃肥大、小顎症などの解剖学的要因
  • 鼻中隔湾曲、アレルギー性鼻炎
  • アルコール摂取、喫煙、睡眠薬の使用

SASと循環器疾患の関係

睡眠時無呼吸症候群は、様々な循環器疾患と密接に関連しています。SASがあると以下の疾患のリスクが高まります:

  • 高血圧
  • 不整脈(特に心房細動)
  • 心不全
  • 冠動脈疾患
  • 脳卒中

また、既に循環器疾患をお持ちの方がSASを合併すると、病状が悪化する可能性があります。

診断と検査

  • 問診と簡単な評価
  • 睡眠時呼吸モニター検査(自宅で行う簡易検査)
  • 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)(専門施設で行う精密検査)

治療

  • CPAP(持続陽圧呼吸療法):最も一般的で効果的な治療法。睡眠中にマスクを通して一定の圧力で空気を送り、気道の閉塞を防ぎます。
  • 口腔内装置:下顎を前方に引き出し、気道を広げる装置。軽度から中等度のSASに効果的です。
  • 生活習慣の改善:減量、禁酒、禁煙、仰向け睡眠の回避など
  • 手術療法:扁桃腺摘出術、口蓋咽頭形成術など(適応は限られています)

当院のCPAP治療サポート

  • CPAP機器の選定と設定調整
  • 使用法の詳細な説明と実践指導
  • 定期的なフォローアップと機器データの分析
  • 保険適用のサポート(条件を満たす場合)
  • トラブル時の相談対応

よくある質問

自分が睡眠時無呼吸症候群かどうか疑わしい場合、どうすればよいですか?

まずは当院にご相談ください。問診と簡単な評価の後、必要に応じて自宅で行える睡眠時呼吸モニター検査を実施します。

CPAPマスクは装着感が悪く、使いづらいと聞きますが?

現在は様々な種類のマスクが開発されており、顔の形や好みに合わせて選ぶことができます。当院では患者様に合ったマスクの選定をサポートし、装着感の改善方法もアドバイスしています。

睡眠時無呼吸症候群は一生治療が必要なのですか?

原因によります。肥満が原因の場合、十分な減量によって症状が改善することもあります。しかし、解剖学的な要因がある場合は、継続的な治療が必要なことが多いです。定期的な評価によって、治療の必要性を判断していきます。

SASの予防と管理

  • 適正体重の維持
  • 規則正しい生活リズムと十分な睡眠時間の確保
  • 側臥位(横向き)での睡眠
  • 就寝前のアルコール摂取を避ける
  • 禁煙
  • 処方された治療(CPAPなど)の継続使用

総合的な心血管疾患予防

心血管疾患予防の説明図

心血管疾患予防のための生活習慣改善

狭心症、心筋梗塞、心不全、睡眠時無呼吸症候群はいずれも関連性が高く、一つの疾患があると他の疾患のリスクも高まります。これらの疾患を予防し、健康な心臓を維持するために、以下の生活習慣の改善が重要です:

禁煙

喫煙は心臓病の最大のリスク因子の一つです。禁煙することで、心臓病のリスクは大幅に低下します。当院では禁煙外来も行っていますので、ご相談ください。

健康的な食事

塩分控えめ、野菜・果物・全粒穀物が豊富で、飽和脂肪や加工食品が少ない食事を心がけましょう。地中海式食事法やDASH食が推奨されています。

定期的な運動

週に150分以上の中等度の有酸素運動を目標にしましょう。ウォーキング、水泳、サイクリングなどが適しています。運動を始める前に医師に相談することをお勧めします。

ストレス管理

長期的なストレスは心臓に負担をかけます。瞑想、深呼吸、趣味など、自分に合ったストレス解消法を見つけましょう。

当院での循環器疾患の管理

当院では、循環器内科専門医による診療に加え、多職種連携による包括的な心臓リハビリテーションプログラムを提供しています。詳しくは心臓リハビリテーションページをご覧ください。

また、睡眠時無呼吸症候群の検査・治療も行っていますので、お気軽にご相談ください。